今日はお堅い(硬い)話。
硬質磁器焼成についてお付き合いください。興味なければパスパス。
手描きの場合の下絵付け(アンダーグレイズ)と上絵付け(オーバーグレイズ)の違いをご説明したいのです。
裏管理人もなんとなくわかっていたつもりでその大きな違いに気づいたのはけっこう最近かもしれません。
ここではマイセンを例にしていますがもちろんどこでも大差ありません。
その1.カオリン・石英・長石を原料とした磁土で成型します。
このカオリンの発見が磁器発明のポイントです。カオリンのみつからない英国は軟質磁器のボーンチャイナ(牛の骨入り)しか作れません。それはそれですばらしいのですが。
その2.素焼き(900度くらい)
素焼きすると15%くらい縮みます。成型や装飾が精密でないと窯から割れてでてきます。
その3.施釉
素焼きしたものに釉薬(うわぐすり)をかけます。施釉(せゆう)とかいいます。均一に施釉するのは熟練の技。
ちなみに釉薬がかかった状態はつや消しの白。
その4.本焼成(1400度から1450度くらい)
本焼成するとガラス質の釉薬が透明になってコーティング状態になります。ツルツルの見慣れた白磁の状態ですね。
波の戯れホワイトやホワイトレリーフなどの白磁ならここで完成。
この状態で絵付けするのが上絵付け。金彩もこのときに。もちろん絵師は異なります。
その5.第三焼成(900度くらい)
上絵付けの絵の具を焼き付けるっていう感じです。セピア色で描かれた薔薇が見事なピンクに変化したりします。
多色使いや緻密なデコレーションの場合はこの第三焼成を繰り返します。
金を磨いて完成。
とってもざっくりですがこんな流れです。
で。おわかりと思いますが下絵付けは?
その2.とその3.の間で絵付けします。素焼き状態。筆の運びが難しい。絶対に修正ができません。
ブルーオニオンやブルーオーキッドはこういう状態で絵付けされます。
マイセンのバックスタンプの双剣マークは下絵ですからここで専任ペインターによって手描きされます。
施釉するとやっぱり真っ白でなにが描かれたかもわかりません。
その4.の本焼成を経てはじめて透明のガラスコーティング(車みたい)状態になります。
完成。
では。上絵付けと下絵付けの違いはなんでしょう?
というか。下絵ってなぜコバルトくらいしか聞かないのでしょう?
ヒントは絵の具と温度。
下絵(染付けとかともいいます)の絵の具は釉薬がかかっているとはいえ、1400度以上の高温にさらされます。そして初めて美しく発色します。
上絵の絵の具は900度。500度の差。上絵の絵の具で下絵付けすると色が飛んじゃうか黒くなるか(よく知りません)。とにかく製品化不能。
下絵用の絵の具を自社開発してもっているかどうかが勝負の分かれ目と考えられます。
秘伝。
マイセンでは1739年にクレッチマーという化学者がコバルト下絵用絵の具を発明。同年ブルーオニオン発表。必然。
さらにグリーン。(別名・通称:酸化クロムの緑)
1800年代のマイセンの功労者キューンが1817年に開発。翌年バインリーフ発表。必然です。秘伝その2。
狩人(猟師)のほら話。ちっちゃいのに高額です。使われているグリーンは下絵付け。その他の色は上絵付け。そして金。トリプル(意味不明)!! 高額になるわけです。描く人みんな違います。
描き手もさることながら絵の具の存在をお伝えしたくて長々とご説明してしまいました。
イングレイズといって絵の具と釉薬が溶け合う技法もあったりで一概には決められませんが、ヨーロッパでの下絵付けの希少性をお伝えしたかったのでした。
最後までお付き合いいただきありがとうございます。
画像付きのこちらの記事もご参考にどうぞ。
参考文献:橋田正信著「マイセン磁器」平凡社
マイセンの本は多数出版されていますが、とってもわかりやすくておすすめです。